拡張ルールのできるまで [-制作ノート]
人気作に中には、拡張セットを個別で販売するケースもありますが、
今回の『猟奇耽異-キュリオシティ・ハンティング-』は再版の特典として企画したものです。
前回お話ししたような追加要素と同時進行で進めていましたが、
一番反応が良かったため、採用することにしました。
どのような経緯で完成したのか、残してある資料を見ながらまとめてみました。
いただいていた3つの課題
2014年11月に初版を発売した『幻影探偵団』ですが、
実際にプレイした方々から、検討したいご意見をいくつかいただいていました。
ざっくりと課題点をまとめてます。
【特殊能力】
・それぞれの探偵団に特殊能力が欲しい
・影男以外の容疑者に個性がないのがもったいない
【宝石チップの片寄り】
・宝石チップがひとりのプレイヤーに集中しやすい
・宝石チップがまったく取れない
【さらなる推理要素】
・最後に二択になった時、ちょっとでも考える要素が欲しい
・数独、潜水艦ゲームっぽいので、ロジック以外の推理要素が欲しい
以前に作っていた推理ゲームが要素を盛り込み過ぎて失敗したので、
『幻影探偵団』では、できるだけシンプルにしていました。
プレイした感想として、要素を増やしたいという声が上がってきたのは嬉しい誤算でした。
でも、あまり大掛かりなものにならないように制約を設けました。
・推理の難易度は下げない
・基本ルールを大きく変更しない
・追加の印刷物をなるべく作らない
個人的に拡張ルール、上級ルールといったものに、
どれくらい需要があるのか計りかねる部分があり、
手間をかけた割に遊んでもらえないということも十分考えられたからです。
仕様の検討
それぞれの探偵団に【特殊能力】を採用しても、それほど変化はつけられないと思い、
いっそ容疑者全員に個別の能力をつけられないかと検討しています。
【特殊能力】の効果で、課題となっていた【宝石チップの片寄り】や、【さらなる推理要素】も
一挙に解決してやろうというジャストアイデアからのスタートです。
効果については、アクションカードで採用しなかったものや、
これまでにメモしてあったシステムのボツ案などを拾うだけで、かなりの量になりました。
始めてみるとアイデアとしては悪くないのですが、難点が次々と出てきます。
・容疑者カードに【特殊能力】の効果をレイアウトするとごちゃつく
・【特殊能力】を発揮するためには、正体をばらすことになり、推理の難易度が下がる
一度、A7サイズの小型のサマリーに情報をまとめ、
【特殊能力】を発揮する条件を、『団長になる』『殺害される』『生き残る』に限定、
なるべく推理の妨げにならないよう調整してみました。
情報を小型のサマリーにまとめるというアイデアは、
別件で検討していたゲームのアイデアだったのだが、いい具合でハマってくれました。
サイズを大きくしてポストカードサイズにするべきか、
文字の読みやすさを含め検討しています。
ただ、サマリーにまとめてみて分かったのですが、
【特殊能力】の発揮条件が少なく、
まったく活かせないままゲーム終了になるケースが起こりえるのです。
そこで、団長と団員それぞれ別の【特種能力】を用意し、
探偵団の構成をプレイヤーが決めるというルールを追加。
このルールは残念ながら影男には適応しませんが、
【特殊能力】の種類も増え、【宝石チップの片寄り】に対応した効果も盛り込むことができました。
【さらなる推理要素】という課題をクリアするために、【特殊能力】の効果に強弱をつけています。
強力な特殊能力を持つ容疑者は、正体がバレやすくなっており、
プレイヤーの行動から推理できるように調整していました。
テストプレイでの調整
画像は初期の仕様で、ようやくテストプレイに持ち込んだ頃のもの。
テストプレイは好評でしたが、まだまだ課題は残っていました。
・もっと【特殊能力】の強弱を抑えた方がいい
・上級ルールだが、初プレイの場合でもおすすめできる
・ポストカードサイズじゃないと文字が読めない
・テキスト内容が分かりづらい
【特殊能力】の強弱はあえて残していたのですが、
繰り返しプレイした場合、やることが決まってしまうという意見をいただきました。
ここから大修正になるのですが、正解でしたね。
ひとりで作っていると、どうしても視野が狭くなりがちです。
テストプレイの重要性を再確認しました。
サマリーもポストカードサイズに確定し、ブログでβ版を公開しながら、
しばらくの間、テキストの分かりにくい部分などを含め、調整を繰り返しています。
『幻影探偵団』の初期からテストプレイをお願いしている方々のチェックをクリアして
納得できる仕上がりになったのは、かなりギリギリの進行になりました。
デザインの注意点
こうしてテストプレイを繰り返し、
ようやく完成した拡張ルール『猟奇耽異-キュリオシティ・ハンティング-』ですが、
デザインについても、いくつか書いておきます。
『幻影探偵団』はコンポーネントを含め、世界観が評価されている作品です。
特典物として企画したものとはいえ、チープな仕様になってしまわないよう注意しています。
大変好評だったのは、角マルですね!!
お願いしている印刷所では追加料金がかかってしまいますが、
ポストカードで5mmの角マルが対応可能です。
当然、納期も遅れますが、耐久性や見た目が格段に良くなります。
紙も厚めのものを選んでいるので、すぐにヘタれるようなことはありません。
こういったことは、どうしても予算との兼合いになりますが、
細部まで気を使ってみるのもいいでしょう。
小型のサマリーにまとめるために、デザイン面でも気を使った部分があります。
・文字の必読性
書体、文字のサイズ、字間(文字と文字の空間)、行間(行と行の空間)、
文字組(ハコ組や揃えかた)、文字の色(スミ文字なのか白抜き文字なのか)、
テクスチャーの有無、1行に収める文面の長さ、などなど。
かぎられたスペースに、読みやすくレイアウトできるように注意したいです。
・テキストのわかりやすさ
こちらは複数の方に見てもらいながら、なるべく短い文面で、
かつ不明確にならないよう注意しました。
日本語の難しさ・・・というか自分の文章力のなさを痛感します。
・使いやすさ
表面に拡張ルールの説明、裏面にそれぞれの特殊能力一覧をレイアウトしています。
それぞれきちんとまとめることで、インストしやすく、プレイ中も確認しやすくなっています。
特殊能力一覧では、容疑者のイニシャルを文面の下にテクスチャーとしてレイアウトしました。
メリハリのあるレイアウトで使いやすさを意識しています。
・フレーバーをもりこむ
容疑者の能力は、美少年なら[機略]、宝石商なら[蒐集]というように、
それぞれのキャラクターに合うような名称をつけ、
またその能力もイメージに合うようものを選んでいます。
プレイヤーが感情移入する重要な要素なので、きちんともりこみたいですね!!
思ったよりも長くなりました^^。
今回の拡張ルールで、『幻影探偵団』の気になっていた部分を補完できたと思っています。
特種能力の確認など、どうしてもインストが長くなってしまいますが、
作者として自信を持っておすすめできるものができました。
再版するにあたって、思い残すことはありません。
『幻影探偵団』は作り物が多く、再版のハードルが高いのですが、
制作者とユーザーが互いに笑顔になれよう、やれることをやってみました。
何かの参考になれば幸いです。
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